有馬記念に全てを賭ける⑤
回想
有馬記念
僕の馬券は2点、ビワハヤヒデからレガシーワールドとセキテイリュウオー。
レガシーの前走は1か月前に走ったジャパンカップ1着。前年の有馬記念でも2着で、とにかく安定した成績。
セキテイは2ヶ月前の秋天でヤマニンゼファー(当時最高のマイラー、2000mの壁を越えた)の2着。
有馬はやや長い気もしたが、こちらも安定感のある走り。
僕の中でこの有馬記念は「2着を当てるゲーム」になっていた。そこへきてこの2頭はしっかり必要条件を満たしていた。
午前中から観客席で陣取りをしていたため(それでもゴール前は取れなかったが)、軍資金も残りわずかとなっていた。
(この有馬記念に全てを賭ける!)
なけなしの1万円、当時の僕にとってはなかなかの大金であるが、1点5千円ずつで2点。残りは電車賃のみ。
これが外れるようなら、寂しい正月となるであろうこと請け合いだ。「有馬記念に全てを賭ける」とはそういう意味合いも含んでいるものである。
僕の目の前、第4コーナーを回った時点でビワが先頭を走るパーマーに並びかけていった。
(勝った)
直感的にそう思った。
先行馬の勝ちパターン。ビワは菊花賞でもこんな勝ち方を見せてくれた。
直線スパートをかける馬群の後ろ姿を見送って、ターフビジョンへ目を移す。
見えたのはゴール板、ビワに先着する赤い帽子。
信じられなかった。
第4コーナーでビワ先頭、あとは直線でどれだけ千切るか見もの、くらいに考えていたのだから。
第38回 有馬記念
1着 トウカイテイオー
2着 ビワハヤヒデ
3着 ナイスネイチャ
僕は当時400円だった競馬新聞の紙面上で、
トウカイテイオー = 終わった馬
として真っ先に赤ペンで消していた。前日に。
1年ちょっと前に競馬を始めたばかりの駆け出しのペーペーは見たこともなかったのだ。テイオーの強い走りを。
競馬新聞を見てもその輝かしい成績は馬柱の下の方に埋もれて見えはしなかった。もちろん2冠馬という情報は知っていた。が、馬券に繋げることはできなかった。当時の僕には一生買えない馬券であった。
「終わった馬」などという若造の失礼な予想を
1着も 復活も。休み明けであろうと。文字通り何一つ。
就職活動も4年間での卒業も半ば投げ捨て気味に諦めかけていた僕には眩しすぎるほどだった。
周りにテイオーコールが沸き起こる。
(そんなに強い馬だったんだ)
気がつけば僕もテイオーの名を叫んでいた。
負けた原因がはっきりしたり、納得できたりするレースは少ないものだが、
(テイオーは強かった。僕よりもずっと)
そう思うと何か
>>有馬記念に全てを賭ける⑥